クラシックにどっぷりつかった8年間

私の一番最初に知り合った調律師さんが
音楽大学の楽器管理を請け負っていた方で、
自分もいずれはそこで働きたいと夢見ていましたが、
意外と早く転機が訪れました。

この会社にはおよそ8年、お世話になりましたが、
人との向き合い方、楽器の見方、人脈、技術など
その後の生き方に非常に大きな影響を与えた時期です。

学校は朝5時から夜22時まで開いていましたので、
就業時間以外の時間は
空いているレッスン室のピアノを色々と触っては
付近にいらした学生さんに弾いてみていただいて、
フィードバックをいただいて、手直しをして、
また弾いていただいて・・・
ということを繰り返していました。

年齢こそ私の方が上ではありましたが
当初調律師歴3年目、
対して学生さん方のピアノ歴は当然10年以上で、
さらにコンクールなど数々の修羅場をくぐって
この場にたどり着かれたわけですから、
頭が上がりません。

当時学生さんでいらした方と
不意に演奏会場などでお目にかかる機会もありまして、
懐かしさはありつつも、
その時はかなりの確率で
「調律です~ って練習室を取られました(笑)」
と言われたりしまして・・・
変わらず頭は上がりません。

とにかく、
それまで私はほぼアップライトピアノしか
見てきませんでしたので、
グランドピアノに触れられるということが
嬉しくてたまらず、
毎朝始発で学校に通いました。

夜の時間帯はレッスン室の空きがないことが多く、
家へ帰りクラシックのピアノのCDを聴き漁りました。

学内ピアノおよそ150台(古楽器含む)を
月1~2回のペースで調律、
またマスタークラスの準備や、
学校主催の各演奏会などがありましたが、
学校といえばやはり「試験」です。

試験の調律には多くの思い出がありますが、
特に1月末に近隣のホールで行う卒業試験
非常に強く印象に残っています。

試験中は舞台袖で控えているのですが、
そこで聴く演奏が、私はとても好きでした。

ヴァイオリンの卒業試験の担当が長かったので、
試験曲でよく使われていた協奏曲
プロコフィエフ、シベリウス、チャイコフスキー・・・
今でも無性に聴きたくなる時があります。

学校調律に携わらせていただくことができて
良かったと思えることはたくさんあるのですが、
ピアノの変化を細かく観察できたことは
特に大きな財産です。

朝5時から夜22時まで、
ほとんどの部屋のピアノが
音大生に弾かれ続けるわけですが、
その変化や、部品の消耗を観察したり、
季節や空調といった温度・湿度の変化の傾向を
身近に、また長期的に見ることができたのは
音楽大学のような環境ならではのことで、
この経験は今でも非常に役に立っています。

また「均質」を謳う国産メーカーさんのピアノが
毎年、新品で何台も納品されましたが、
それでも1台1台には個性がちゃんとあって、
変化の仕方も様々だということも
観察することができました。

その体験があるからでしょうか、
私はピアノと向き合うときには、
メーカーのカラーよりも
1台1台のキャラクターのほうに
注目してしまうのかもしれません。

音楽大学がきっかけで
繋がらせていただきました方々にも
大変お世話になりました。
調律の作業を直に見せていただいたり、
月1~2回は演奏会を聴きに行くようになったり、
のちに会社を離れるときのステップになったりと、
非常に大切なものを得させていただいた8年間でした。

学生としてではありませんでしたが、
わたしにとって この学校は
まさに「学びの場」であり、
感謝のほか言葉はありません。



今はもう取り壊されてしまいましたが、
ピアノの実技試験会場「333」
この景色を見ると、今でも緊張します。

旧校舎、3階の一番奥にある大教室でした。

試験の日の朝は、
5時から楽器のコンディションや、空調を確認し、
会場の設営を用務員さんと考えたりして
試験の準備をしました。
左側(東)の窓から朝日が差し込んでいます。

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