【湿度管理――ピアノ調律師の来ない36●日間、楽器の音を守るセルフケア】


雨の日に、
“なんだかピアノの響きがいつもと違う”
と感じたことはありませんか。

それは、湿度の変化が原因かもしれません。

ピアノは、木やフェルトといった
自然素材でできています。

天気や季節によって湿度が変わると、
ピアノ内部の部品もわずかに膨らんだり縮んだりします。
 
その小さくも思える変化が、
音の響きや弾き心地の差に表れてきます。 

◆湿度と音程の変化について

湿度が高くなると、
主に中低音の境目付近を中心に、
音程が少し上がります。
 
反対に乾燥すると、
同じあたりの音が下がっていきます。
 
ピアノ全体が均等に上がったり下がったり
するわけではないため、
和音のバランスが崩れてしまい、
演奏すると響きが濁って聴こえることがあります。 

◆理想の湿度は【50%】

湿度が高すぎると
音がくもったり、鍵盤の動きが重くなったり、
 
逆に乾燥しすぎるとネジがゆるんでパーツがぐらついたり、
カタカタというノイズが出たり、
 
時には
・鍵盤やハンマーが戻らなくなる
・音が止まらない
など、演奏に支障をきたすトラブルが起きることもあります。
 

でも、湿度を安定させることで、
これらのようなトラブルを予防することができます。
 
効果的なのは、
やはり除湿機や加湿機の活用。
湿度設定は【50%】です。

 
 
もうひとつ、大切にしていただきたいのは
『数字』と『体感』を共に意識すること。
 
ピアノの部屋に入ったとき、
“心地よい”と感じられるか。
 
その感覚と
湿度計の数値をすり合わせながら、
 
人もピアノも“心地よい”と感じられる環境を
目指してみてください。

◆調律師がそのピアノに触れるのは、365日のうちたった●日

たとえば、年に1回の調律ですと、
私たち調律師がピアノと向き合えるのは
365日の中のたった1日、1年間のうち【0.3%】の時間です。

残りの【99.7%】――364日をピアノがどう過ごすか。
これは楽器の状態に大きく影響します。

実際、湿度管理をしっかりされている部屋のピアノは、
1年後に訪れても音の乱れが少なく、
安定していることが多いです。
 
その状態から調律スタートになりますので、
同じ作業時間でも
より深く調整を直していくことができます。

結果的に、ピアノは毎回の調律でより良くなっていきます。
 

だからこそ、日々の環境づくりを
とても大切にしていただきたいと思っています。
 
調律師の来ない年間99.7%の日々
その間のピアノの状態の鍵を握っているのは、
ピアノと共に過ごされている方々です。
 

湿度のコントロールは、
ちょっとした気配りでできる、
もっとも手軽で効果の高い
ピアノのセルフケアのひとつです。

大切な楽器を長く美しい音で保つために
ぜひ、今日からお気に留めていただけましたら幸いです。